複雑ネットワーク科学は、現実世界に存在するネットワークの性質を解明する分野で、スモールワールド性、スケールフリー性など、系の詳細によらない普遍的性質の発見をきっかけに近年急速に発展している。特に都市間の人の移動パターンや経済活動など、社会科学においてはノードの地理的配置とネットワーク構造が関係する例が多く見られる。本研究では、地理的構造の上に成長したネットワークを解析することにより、空間情報科学における新たな解析の枠組を提示する。環境の変化に伴うネットワーク構造の時間変化も視野に入れて解析を行う予定である。例えば、人間関係のネットワークは、情報通信技術の発展により地理的要因が近年弱まっていると考えられる。このようなネットワーク構造の変化を特徴づけることも目的のひとつである。
空間情報科学と関連したネットワークの例として、人の流れデータを用いて、都市において人の接触を通じた情報伝播の解析手法を開発中である。本研究をもとに、自然・人文社会的な空間上での相互作用解析の汎用的手法構築に貢献できると考えている。本研究が完成すると、感染症拡大の推定と対策提言、災害時のアドホックな無線通信の性能評価、他の時変ネットワークの解析などの応用可能性がある。提案手法によって感染確率の高い人のグループを同定可能なので、感染症流行の早期検知や重点的な感染症対策の検討などの応用可能性がある。
ネットワーク状に結合した素子が互いに相互作用しつつ非線形な時間発展方程式に従い変化する状況は、複雑系の典型例のひとつである。本研究では、モバイルアドホックネットワークにおけるクロックの同期、再生エネルギー大量導入下での電力網の安定な同期、などへの応用を念頭に、ネットワーク上での非線形振動子の同期現象を考える。ネットワーク構造が同期しやすさに与える影響を特徴づける手法を開発する。