早川 裕弌 准教授 空間情報解析研究部門 2009- (個人ページ:: http://home.csis.u-tokyo.ac.jp/~hayakawa/

地球科学に関する空間情報科学的研究課題に取り組んでいる.

遷急区間や蛇行度に着目した岩盤河川の地形解析

 北米のナイアガラ滝でよく知られているように,滝は時間が経つにつれて侵食され,上流方向へその位置をシフトする.一般に,滝を構成する岩盤は年に数 cm から数 m というオーダーの速さで削られており,これは流水による岩盤侵食の速度としてはかなり大きい.したがって,滝(より汎用的には遷急区間と表現する)の現在の位置やその侵食(後退)速度を的確に把握することは,短期・長期的な時間スケールにおける地形変化を明らかにする上で重要な課題である.そこで,滝(遷急区間)がどれほどの速さで侵食されているのかを,岩石物性・流域地形特性・気候条件・滝の規模という各主要パラメータを用いて,物理的考察に基づく次元解析から導いた無次元パラメータを構築し,後退速度を予察するモデルを導出した.現在,このモデルの適用性を世界各地において検証している.一方,現存する多くの滝(遷急区間)は一体どこにあるのかといったこと,すなわち,滝(遷急区間)の空間分布の系統的調査というものは従来ほとんどなかった.そこで,DEM(デジタル標高情報)を用いた地形空間分析から,滝(遷急区間)の日本列島における空間分布を定量的に示した.現在,この分析手法に基づき,世界各地の岩盤河川における滝(遷急区間)の分布を調査している.さらに,岩盤河川の蛇行度をDEMを用いた計測により定量化し,気候・地質などの要素との空間的な関係を日本列島を含む西太平洋地域において明らかにした。これにより豪雨頻度や台風襲来頻度が高い地域ほど岩盤河川はより穿入蛇行していること,すなわち地形に与える気候の影響を明らかにした。これらの調査を進めることにより,今現在そこにある滝がどうしてそこにあるのか,そして地球環境の変化に応答して岩盤河川は今後どうなるのか,といった地形の変化を捉えることが可能となり,従来,平野河川に比べて手薄であった岩盤河川侵食の動態が解明され,ひいては地球表層の長期的な変動様式が明らかにされることが期待される.

西アジア等における地考古学調査

 海外の,とくに大都市から離れた調査地域では,地形図など基礎的なデータも簡単に手に入らないことも多い.そこで,手軽に持ち運べるレーザー距離計と高精度GPSとを組み合わせて,考古学・地考古学的な現地調査においてその場の詳細な地形図を迅速に作成する手法を開発した.この手法により,たとえば 1 km 四方の範囲を,2 人で 4 日 間の作業で,1:500 地形図相当の地形情報(解像度4 m の DEM,水平・鉛直精度ともに 1 m 以下)を取得することができる.旧来の平板測量やトータルステーションを用いた調査であれば,数か月の時間と何十人という人員を要するであろう.また,より狭い範囲をより細かく測量することも可能であり,基準点とする座標値の精度を高く取れば,10 cm 解 像度の DEM を迅速に作成することも可能である.すなわち,目的や対象によって取得するデータの解像度を柔軟に設定できるフレキシビリティも,この手法の利点の一つである.これまで,トルコ,シリア,オマーン,イタリアなどにおける先史〜古代遺跡とその周辺地域において,この手法を活用した地考古学調査を進めている.また,この手法の適用可能性は幅広く,たとえば上記の滝(遷急区間)やスイスアルプスの岩石氷河などの地形調査にも活用されている.