藤田 秀之 助教 空間情報工学研究部門 2008-  (個人ページ:: http://home.csis.u-tokyo.ac.jp/~fujita/

コミュニケーション駆動の空間コンテンツ組織化環境

 位置情報に基づくサービスが社会に根付くためには,実世界の場所に関する魅力あるコンテンツ(空間コンテンツ)が,新鮮さや多様さを維持しつつ持続的に生産される環境が不可欠である.そこで,空間コンテンツが草の根的に生産される環境を目的とした,コミュニケーションツールの研究開発を行っている.具体的には,地図とタグを用いてデジカメ写真を整理し,日記や旅行記,観光案内,フィールドワーク記録,経路案内等を,写真のシークエンスと地図を用いた物語として手軽に編集・閲覧するアルバムソフトウェア(空間アルバムソフト PhotoField)を開発・公開している.本ソフトウェアを通して取り組んでいる主な研究テーマを以下に示す.

空間フォークソノミー

 草の根的なコンテンツを多くの利用者間で共有するためには,適切な組織化の手法が不可欠である.空間コンテンツは,地理座標という絶対的なアドレス空間に組織化されるものの,点としての位置情報だけでは実用性が低いことが多い.コンテンツ間の連携に必要な内容の同一性は,必ずしも点としての位置の同一性と一致しないためである.写真の場合,同じ位置からの写真でも,撮影方向が反対であれば対象が異なり,同じ位置を写した写真でも,スケールが異なれば,富士山の写真と高山植物の写真というように,やはり対象が異なる.この場合,位置に加えて,方向やスケールを考慮して組織化する必要がある.他方で,画像や映像,音楽といった,組織化が困難とされるコンテンツの組織化の手法として,あらかじめ定められたカテゴリーにコンテンツを厳密に分類していく従来の手法に対して,利用者それぞれがコンテンツに対して,タグと呼ばれる自由なキーワードを複数与え,タグの関係を利用してコンテンツを組織化する手法が,フォークソノミーと呼ばれ注目されている.本研究では,写真やタグの空間関係を活用する空間的なフォークソノミーの環境を検討しており,具体的には,タグや撮影位置・方向といった情報を,複数の写真間で伝播・共有する手法を提案している.

物語性を持つ空間コンテンツの作成支援

 Web上で草の根的に地図コンテンツを生産する試みが増加しているが,いかにコンテンツの作成を促すかという点が検討されておらず,期待された程の参加者を得られない一因となっている.この点に関して,ツールの手軽さやエンタテインメント性に加え,作り手が個性や創造性を発揮して表現を行えることが不可欠であるとの観点から,空間コンテンツに物語性を持たせる枠組みを検討している.具体例として,ストーリラインを空間内の経路に対応させ,デジタル写真のシークエンスにより物語として表現することを支援する環境を提案している.写真を撮影位置と方向に対応する矢印アイコンとして描いてくと,写真を次々とたどりながら空間内を移動していくような視覚効果を持つ,写真と地図のアニメーションが作成される.マッピングするだけではなく,順序付けることで,受け手は,内容を一方向に”読む”ことができ,作り手は,テーマやシナリオ等を工夫し,地図全体を使って事物の連続として表現を行うことができる.一般に,物語に構造を与える手段は,要素の選択と配置である.例えば,ある建物の外観を写真のシークエンスで表現する場合,写真の順序は撮影時刻順より,建物を周囲から一方向に見回す順,すなわち空間順の方が適切である.他にも,経路沿い,ある場所から周囲を見渡す順といった空間順があり,ひとつの物語は,時間的な構造,空間的な構造,意味的な構造(主客関係や因果関係)が重層して構成される.本研究の本質的な課題は,実世界の場所に関して表現するという行為に関わる時空間的・意味的なスキーマを明らかにすることであり,応用として写真シークエンスの半自動生成の手法を検討している.

 本ソフトウェアは大学の授業におけるフィールドワークを含め,主に個人ユーザに利用されているが,以下の比較的大規模な利用事例がある.

  • 京都浮世絵デジタルアーカイブマッピング(立命館大学アートリサーチセンター一般展示)
  • 京都町並み変遷地図(国立民族学博物館一般展示(立命館大学地理学教室))
  • 集合住宅の防犯に関する調査((財)都市防犯研究センター)

空間情報規格の実践的な学習ツールの研究開発

 空間情報規格スタジオは,地理情報システム学会空間IT分科会が主催する講習会であり,GISや空間情報技術に関わる実務経験者を対象として,空間情報規格の実際を学び,空間データモデリングのスキルを実践的に身に付けることを目的としている.本スタジオの教材として,地理情報標準プロファイルに基づく空間データ閲覧・編集ツールの開発・運用を行っている.本ツールは,XMLスキーマとして表現された空間データの構造を,利用者が直感的に理解できることを目的としており,複雑になりがちな,XML要素間の親子関係や参照関係,それらに基づく,地物を構成する要素間や地物間の関係を,XML文書と地図,時間地図上に視覚化する.加えて,XML文書への要素や属性の追加,変更や,地図,時間地図上での地物の移動・変形といった操作に応じて,XML文書と地図,時間地図が連動して更新されるため,実際に空間データ触れながらその構造を理解する助けとなる.